植物
みどりを観る・染井吉野(ソメイヨシノ)の実

樹木医でもある野沢園社員が、日々植物と接する中で見かけたこと気になることを、調べてみたりやってみたりする「みどりを観る」シリーズ。今回は 6 月初めに見かけた染井吉野(ソメイヨシノ)の実の話です。サムネイルの写真がその実です。
日本人に馴染みのある桜としてまず名前のあがる「染井吉野(ソメイヨシノ)」。お花見の花として公園等、色々なところに植栽されています。起源は諸説ありますが、江戸時代につくられた「江戸彼岸」と「大島桜」の種間雑種の栽培品種といわれています。このあたりの話は別の機会に。
染井吉野(ソメイヨシノ)はクローン
染井吉野(ソメイヨシノ)が好まれる理由の一つに、葉が出る前の短い期間に一斉に花が咲くということがありますが、これはクローン技術によるものです。世界中にある染井吉野(ソメイヨシノ)全てが同一固体=クローンであり、そのため同様の環境におかれると同時に開花するわけです。
ちなみに染井吉野(ソメイヨシノ)は接木という他の木の根株に枝を接ぐ方法で殖やすのが一般的ですが、クローンでも実は出来るのでしょうか?
答えは出来ます。
多くの桜は自家不和合性という性質をもち遺伝的な劣化を防いでいます。つまり自分の花粉では受粉できないのです。受粉できなければ実はできません。染井吉野(ソメイヨシノ)は全て同一個体という話をしましたが、なぜ実をつけることができたのでしょうか?
それは桜の仲間は種間雑種を作りやすいからです。写真の実は染井吉野(ソメイヨシノ)と他の桜の雑種の実なのです。そのため染井吉野(ソメイヨシノ)ばかりが植栽されているところではあまり実を見ることができません。
それでは実のもう一つの親は?
染井吉野(ソメイヨシノ)の実がついている木のすぐ近くに山桜がありました。その山桜がもう一つの親と推定されます。おそらく近くにある山桜で蜜を吸った虫が花粉を運んだのです。このような種子を育てると少し異なる花が咲くようになります。
片親が染井吉野(ソメイヨシノ)と推定される栽培品種には「咲耶姫」や「思川」などがあります。

まとめ
これらの結果を踏まえると、「染井吉野(ソメイヨシノ)の種子からは染井吉野(ソメイヨシノ)は出来ないが、似た品種の種ができる」ということになります。ちなみにこの実は苦味がありおいしくないと言われています。はたして本当においしくないのか?
次回は染井吉野(ソメイヨシノ)の実を実食してみようと思います。
参考文献 :「桜の科学」勝木俊雄 (サイエンス・アイ新書)/「日本の桜」 勝木俊雄(学研)
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